「関節の痛みが出たときの正しい対処法」理学療法士が教える、トレーニングに戻るまでのステップ
トレーニングやスポーツをしていると、突然関節に痛みが出たという経験がおありの方も多いかと思います。

「少し我慢すれば治るだろう」と放置してしまう人も多いですが、間違った対応をすると回復が遅れたり、慢性的な痛みに移行してしまうこともあり注意が必要です。
今回の記事では、理学療法士としての視点から
関節に痛みが出てから安全にトレーニングへ復帰するまでの流れを、皆様にわかりやすく解説していきたいと思います。
関節に痛みが出た際に、理解しておくべき要点は次の5つです。
1.急に関節が痛くなったときの対処法を理解する
2.痛みの原因を見極める
3.急性期(発症直後)の正しい対応
4.痛みが落ち着いてきたらやるべきこと
5.元のトレーニングに戻るためのステップを理解する
1. 関節が痛くなったとき、まず行うべきこと
痛みが出た直後は「無理をしない」が鉄則です。
そのまま動き続けると、炎症や組織損傷を悪化させる可能性があります。
急性期では「RICE処置」を行います。

RICE処置とは?
急性期的に起きた怪我や炎症に対して行うべき処置
迅速に4つの処置を行うことでケガによる痛みや炎症を最小限に抑えることが可能です。
Rest(安静):痛みのある部位を使わないようにする。歩けない方は松葉杖などを使用
Ice(冷却):患部を15〜20分を目安に冷やす(受傷後48時間ほどは1~2時間おきに繰り返す)
Compression(圧迫):軽く圧をかけて腫れを防ぐ(受傷後24~48時間はできるだけ頻繁に)
Elevation(挙上):心臓より高く上げて腫れを抑える(受傷後48時間はできるだけ常時)

これらは怪我の箇所や程度によっても異なり、全てを必ず行わなくてはいけないということではありません。
状況を的確に判断して判断していくことが大切です。
2. 痛みの原因を見極める
関節の痛みといっても、原因は様々です。
・関節内の炎症
・筋肉や腱の損傷
・神経痛
「どの場面で痛めたのか?」「どの動きで痛いか」「どんな種類の痛みなのか?」を明確にすることがとても重要です。

例えば、膝の痛みなら「しゃがむ」「階段を降りる」「ジャンプする」など痛みが出る場面や、具体的な動作や痛みの種類(ズキズキする・重い感じの痛みなど)を記録しておくと原因特定に役立ちます。
痛みの原因によってもその後の対処は大きく異なります。
原因をきちんと把握した上で、その後の向き合い方を決めていくことが大切です。
3. 急性期(発症直後)の正しい対応
発症から48〜72時間は、炎症が強く出る時期です。
この時期は「安静と冷却」が中心。
上記でご説明したRICE処置が基本となります。
無理にストレッチやマッサージを行うと悪化する場合もあるので注意が必要です。

ただし、全く動かさないと関節だけでなく周囲の筋肉や靭帯などの動きが悪くなってしまうこともあるため
痛みのない範囲で軽く関節を動かし、柔軟性を保っておくことも大切です。

状況を的確に把握し、やれること・やれないことを的確に判断して実行していくことがこの時期には必要になります。
4. 痛みが落ち着いてきたらやるべきこと①関節可動域の確保
炎症が徐々に治まり、痛みが落ち着いてきたころ
「運動を早く再開したい!」という気持ちはわかりますが、焦ってはいけません。
関節に痛みが出た後には、筋肉のこわばりや動かなかったによる関節周囲の軟部組織の柔軟性が低下しているケースが少なくありません。
この時期には少しずつ関節を動かし、可動域(動く範囲)を取り戻していくことが重要です。

ここでのポイントは段階的に、痛みの出ない範囲から行うこと
決して無理をしないようにしてください。
関節可動域確保へのアプローチは、以下の通りです。
①自分の筋力を使わずに外からゆっくりと動かしてもらう。
②反対の手、タオルなどを使いサポートをしながら自分の筋力も使ってゆっくりと動かす
③自分の筋力でしっかりと関節を動かす

炎症が残っている場合には、初めから自分の筋力で関節を動かそうとすると、
炎症が悪化したり再損傷を引き起こすことがあります。
関節を動かしていくタイミングは、痛みの原因によっても異なるため
医師の判断を仰いだり、理学療法士などの専門家に相談をしていただくことも大切です。
痛みが落ち着いてきたらやるべきこと②筋肉の再教育
痛みがある間は無意識に動きをかばってしまうため
筋肉と神経の連動が乱れてしまうケースが多くみられます。
わかりやすく言うと、痛みが取れた後に動きに不器用さが残ってしまうということです。

このような状況下では、弱くなった筋を再び正しく使えるように
神経と筋肉の再教育を行うことが大切です。
膝関節なら大腿四頭筋の再活性化

肩関節なら肩甲骨周囲筋の安定化トレーニングなどを適切な指導の下行います。

痛みが取れた→「すぐに元通りのトレーニング」という考え方をしてしまうと
動きをうまくコントロールできず、効果的なトレーニングができなかったり、痛みを繰り返してしまう原因にもなります。
トレーニングへ復帰するための準備期間とも言えるこの時期
しっかりと神経と筋肉の連動性を高めることが重要です。
5. 元のトレーニングに戻るためのステップ
痛みなく日常生活が送れるようになり
関節の可動域も回復していると感じられるようになれば、徐々にトレーニングへと復帰していきます。

ここでは、膝関節の痛みが出た場合のトレーニング再開へのプロセスを、自分のトレーナーとしての経験も踏まえてお伝えしていこうと思います。
基本的なステップは以下の通りです。
①低負荷、狭い範囲の運動から開始
例:膝の軽い屈伸
②荷重を徐々にかける
例:両脚でのスクワット → 片脚でのスクワット
③動きの範囲を広げていく
例:浅いスクワット → 深いスクワット
④自由度の高い運動へ(不安定化での運動)
例:ランジ、ステップ動作、ジャンプ動作など
⑤負荷を高める
例:ウエイトを使った筋力トレーニングやスポーツ動作へ復帰
一般的には「小さい動き → 大きい動き → 複雑な動き・高負荷のトレーニング」の順番で負荷と可動域を調整していくことが、安全にトレーニングへ戻るための基本です。

しかし、人間の身体の反応は非常に複雑であり、現場ではマニュアル通りに進まないことの方が多いと感じています。
ここからは、私自身がトレーナーとして現場で感じていること、実践している内容を中心にお伝えしたいと思います。
「不安定な環境下でのトレーニング」の重要性
特にピアレスウルフで重要視しているのは
不安定な環境で関節の動きをコントロールすること
片足立ちや

バランスディスクを用いたトレーニング

これらを行っていくことで、関節の動きをコントロールできるようになることが
トレーニングにおける痛みの再発防止・予防の観点から非常に重要であると感じています。
これは日常生活で起こる関節の痛みの予防・改善に対しても同様で
「関節の安定性を高める」上で不安定な環境下でのトレーニングは非常に有効です。
回復への道は一人一人異なる。
痛みが出てから、通常のトレーンングへ復帰するまでのプロセスは一人一人大きく異なります。
基本のプロセスを知ったうえで、状況に合わせて柔軟に対応していくことが重要です。

「トレーニング中に痛みが出てしまった」「どうしたらよいかわからない」などのお悩みがある方は
公式ラインからお気軽にご相談ください。

最後まで読んで頂きありがとうございました!
記事の執筆者
阪本洋平(ピアレスウルフ代表)
・理学療法士
・総合格闘家/初代GRACHANライト級チャンピオン/第二代GRACHANフェザー級チャンピオン
・パーソナルトレーナー
経歴
琉球大学理学部海洋自然科学科生物系卒業。
琉球大学在学時代から総合格闘技のプロ選手として活動を開始。
その後自らの怪我や痛みの原因を知るため、茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科に入学。
在学中も選手としての活動を継続する。
卒業後は理学療法士として茨城県内の総合病院に勤務する傍ら、初代GRACHANライト級チャンピオン(2016年)第2代GRACHANフェザー級チャンピオン(2017年)を獲得。
2023年4月、つくば市松代にキックボクシング・ブラジリアン柔術・総合格闘技ジム「ピアレスウルフ」パーソナルトレーニングジム「ピアレスウルフパーソナル」をオープン
阪本典子(スペシャルアドバイザー)
・医学博士
・大阪市立大学 医学研究科解剖学 博士課程修了
・九州栄養福祉大学 名誉教授
・近畿大学医学部 学内講師
安全にトレーニングへ戻るためには、次のような段階的ステップが重要です
痛みなく日常生活が送れること
関節の可動域が左右差なく回復していること
基本的な筋力が戻っていること
フォームを意識した軽負荷トレーニング
元の負荷・スピードへ段階的に復帰
焦らず、1ステップずつ確認しながら戻すことで、再発リスクを大幅に減らせます。
6. まとめ:焦らず、体と対話しながら回復を
関節の痛みが出たとき、
「我慢して動く」か「すぐに休む」か、判断に迷う方は多いです。
理学療法士の目線から言えるのは、
“痛みのサインを無視しないこと”
“正しい段階を踏んで戻ること”
これが、最も早く・安全に元のトレーニングへ復帰するための近道です。
筋肉の再教育とは?
痛みがある間、身体は無意識に動きをかばうため、筋肉の使い方が崩れてしまいます。
特に膝では、大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)やハムストリングスの働きが低下しやすいです。
理学療法では、
膝を伸ばす際に大腿四頭筋を意識的に働かせる「クアドセッティング」
脚全体のバランスを整える軽いアイソメトリック運動(静的な力の入れ方)
などから再教育を行います。
3. 低負荷・小可動域の種目から段階的に開始
筋肉が再び正しく働き始めたら、次のステップは低負荷・可動域の小さい運動から始めます。
ステップの進め方(膝の場合)
小さな可動域の運動から開始
例:膝の軽い屈伸、シッティング・ニーエクステンション(椅子に座って膝を少し伸ばす)
荷重を徐々にかける
例:両脚でのスクワット → 片脚でのスクワット
可動域を広げていく
例:浅いスクワット → 深いスクワット
自由度の高い運動へ
例:ランジ、ステップ動作、ジャンプ動作へと移行
負荷を高める
例:ウエイトを使ったレジスタンストレーニングやスポーツ動作へ復帰
上記のように「小さい動き → 大きい動き → 複雑な動き」へと徐々に負荷と可動域を調整していくことが、安全にトレーニングへ戻るための基本となります。
4. 再発を防ぐためのフォーム修正と筋バランスの改善
膝の痛みは、単なる使いすぎだけでなく、フォームの癖や姿勢の乱れが原因になっていることも多いです。
例えば、
スクワットで膝が内側に入る(ニーイン)
骨盤や足首の動きが硬い
ハムストリングスが弱く、前ももに負担が偏る
といった場合、再発しやすくなります。
理学療法士の立場では、
関節だけでなく動作全体の連動性を見て、正しいフォームを身につけることが大切だと考えます。
5. トレーニング復帰の目安
膝の痛みが完全に落ち着き、以下の条件を満たせるようになれば、元のトレーニングへ段階的に復帰してOKです。
日常生活で痛みがない
関節の可動域に左右差がない
片脚スクワットなどで安定して支えられる
動作フォームが崩れない
焦って元の負荷に戻すよりも、**「1週間遅くても確実に戻す」**ほうが、長期的には早い回復につながります。
まとめ
膝の関節痛が出たときの流れをまとめると、
急性期は安静と冷却(RICE処置)
炎症が落ち着いたら可動域と筋肉の再教育
低負荷・小可動域からスタートし、徐々に負荷と自由度を上げる
フォーム改善と全身バランスの見直し
痛みがなく安定した動作でトレーニング復帰
理学療法士としては、「痛みが引いた=治った」とは限らない点を特に強調したいところです。
筋肉の使い方や関節の安定性を取り戻してこそ、本当の回復と言えます。
急性期(痛みが出た直後)~まずは炎症を抑える
膝に痛みが出た直後は、炎症や腫れを悪化させないことが最優先です。
対応の基本:RICE処置
Rest(安静):痛みのある動作は避ける
Ice(冷却):15〜20分冷やす(1〜2時間おき)
Compression(圧迫):軽く包帯で圧迫して腫れを抑える
Elevation(挙上):脚を心臓より高く上げて血流を整える
この期間(発症から48〜72時間)は、「治すために動かさない」時期です。
ステップ②:痛みが落ち着いてきたら、筋肉の再教育を行う
炎症が治まり、日常生活で強い痛みがなくなってきたら、
膝の安定性を支える筋肉を「再び正しく使えるようにする」ことが重要です。
主に再教育する筋肉
大腿四頭筋(太ももの前側)
ハムストリングス(もも裏)
臀筋群(お尻)
下腿三頭筋(ふくらはぎ)
これらが正しく働かないと、スクワット時に膝へ過剰な負担がかかります。
再教育におすすめの軽いエクササイズ
クアドセッティング(膝を伸ばす筋肉を意識して収縮)
ヒップリフト(お尻の筋肉を使って骨盤を持ち上げる)
ミニスクワット(10〜20°の浅い角度での屈伸)
※この段階では「筋肉にスイッチを入れる」ことが目的であり、まだ筋力強化ではありません。
ステップ③:低負荷・小可動域のスクワットからスタート
筋肉がしっかり働くようになったら、次に動作練習としてのスクワットを再開します。
ただし、最初は浅い角度(膝の屈曲30〜45°程度)で、体重負荷のみから始めます。
進め方の目安
自重で浅いスクワット(フォーム練習)
→ 鏡を見ながら、膝が内側に入らないよう意識
膝の安定性を確認しながら深さを増やす
→ 徐々に60°、90°と深めていく
軽いダンベルやバーベルを使用
→ フォームが安定してから、バーのみ(20kg程度)を担ぐ
この段階では、**「重さよりも動きの質」**を最優先にします。
ステップ④:可動域と自由度を広げながら負荷を上げる
膝に痛みが出ず、安定して動けるようになったら、少しずつ可動域と負荷を増やしていきます。
段階的な進行例
ステップ1:ハーフスクワット(膝90°程度)
ステップ2:パラレルスクワット(太ももが床と平行)
ステップ3:フルスクワット(深くしゃがみ込む)
同時に、**バランスや自由度の高い動き(例:ランジ、片脚スクワット)**も少しずつ加えていきます。
この時期になると、膝だけでなく、股関節・足首の連動性を高めることが重要です。
正しい動作連鎖が身につくと、スクワットで膝に余計な負担がかかりにくくなります。
ステップ⑤:元の重量に戻す前のチェックポイント
次の項目をすべてクリアできたら、**元の重量(以前扱っていた負荷)**への復帰を検討してOKです
日常生活や階段で痛みがない
自重スクワットでフォームが安定している(膝が内側に入らない)
片脚スクワットが痛みなく可能
軽めの負荷で複数セットこなしても違和感がない
この条件を満たした上で、前の重量の70〜80%程度から再スタートし、1〜2週間かけて戻していくのが理想です。
ステップ⑥:再発防止のための意識ポイント
フォームの確認を怠らない(膝はつま先と同じ方向)
臀筋・体幹を意識的に使う(膝への負担を分散)
トレーニング後のストレッチとアイシングで疲労を残さない
オーバートレーニングを避け、回復日を設ける
理学療法士としては、“膝を守るトレーニングフォーム”を身につけることこそ最高のリハビリだと考えます。
まとめ
膝の痛みからスクワットへ安全に戻るための流れをまとめると
急性期はRICE処置で炎症を抑える
筋肉の再教育で膝の安定性を取り戻す
低負荷・小可動域のスクワットから再開
徐々に可動域と負荷を拡大
動作が安定したら元の重量へ
焦らず、体のサインを確認しながら1ステップずつ進めることで、
膝を痛める前よりも安定したフォームと強さを手に入れることができます。



